ネタバレ! 小説と映画の感想‐青葉台旭

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映画「この世界の片隅に」の「のん」について。

*ネタバレ有り。

konosekai.jp

主演の「のん」について。

色々と「この世界の片隅に」の感想を書いたブログなどを少しずつ読んでいるが、皆さん口をそろえて言っているのは主演の「のん」の演技が素晴らしいという事だ。

私も同感だ。

もはや主人公すずの声は、のん以外には有り得ないというくらいの当たり役だった。

ただ、ここでひとこと言いたいのは、主人公すずが天然少女キャラだから(実際に天然少女である)のんちゃんは素のまんまで良かったんだろう……というほど単純な話でもないという事だ。

たしかに前半部の、あのホンワカしたすずさんの感じは演技(技術)が上手ければ出せるという物ではない。

のんという女優が生まれつき持っている声の質感とか、元々の発音の優しい感じが有ればこそであろう。

しかし、この映画における彼女の素晴らしさは「天性の素質として、すずという役にピッタリだった」というだけではない。

聞くところによると、のんをはじめとする出演者たちの広島弁は、ネイティブの広島出身者が聞いても自然で違和感が無いという。

そして物語後半、空襲が激しくなるにつれて、幼なじみから「普通でいてくれ」と言われたにも関わらず徐々に自分を見失っていくすずの演技の緻密さ、そしてクライマックスに終戦の玉音放送を聞いた直後の慟哭の凄さ。

これらは単に「天然少女が天然少女の役をした」で片付けて良いものではない。

確かな技術としての演技力と、周到に用意された演技プラン、自然な発音と感情表現を両立させた方言訓練の結果だ。

わたしはドラマ「あまちゃん」を観たことが無いし、のんという女優の演技を観た(聴いた)のはこれが初めてだが、この映画「この世界の片隅に」における彼女の演技は、もはやこれ無くしては映画が成立しないほど重要な要素であると断言できる。

それは、のんという女優が生まれつき持っている声や話し方や性格に加えて、彼女が意識的に行った努力の結果である。

日本中に何百人何千人と居るであろう女優たちの中から、のんを抜擢し演出した監督の手腕にも、賛辞を贈りたい。