ネタバレ! 小説と映画の感想‐青葉台旭

小説と映画のネタバレ感想が書いてあります。メインのブログはこちら http://aobadai-akira.hatenablog.com/

映画「動くな、死ね、甦れ!」を観た。(ネタバレ)

動くな、死ね、甦れ! - Wikipedia

渋谷ユーロスペースで観た。

この記事はネタバレを含みます。

未見の人はご注意ください。

さて、本作品の感想。

まあ、とにかく、ヤサグレているんだわ。
町すべて……というより世界すべて、画面に出てくる全てがヤサグレてる。

大人も子供も、男も女も、とにかく、どいつもこいつも貧乏で不幸で、道路は未舗装で泥ドロで水たまりだらけで木屑みたいなのが浮いているし、みんな小汚いコート着て、小汚いボロアパートに住んでいるし、どいつもこいつも隙あらば他人の物を盗んだり奪い取ろうとしているし、ダンスホールでは傷痍軍人らしき身体障碍者をみんなで寄ってたかってタコ殴りにするし。

お前ら何でそんなにヤサグレてるんだよ。

日本人捕虜が登場するので、どうやら第二次世界大戦終戦直後の収容所の町が舞台らしい。

ああ、なるほど終戦直後の話か……それにしてもロシア人、ヤサグレ過ぎだろ。

少し前に「野良犬」っていう終戦4年後に公開された日本の映画を見たけど、ここまで町全体がヤサグレてはいなかったぞ。

お前ら、第二次世界大戦では勝ち組のはずだろ?

何で、そんなドン底生活しててヤサグレてるの?

しかも、小学校に行ったら子供たちが泥々の校庭で行進しながら「我らがスターリン様は偉大な指導者〜」みたいな変な歌を歌わされているし……

主人公が、便所にイースト菌を流して肥溜めのウンコを膨張させて校庭に溢れさせるっていう臭さ過ぎるイタズラをして、それが学校側にバレたら、主人公の母親が校長の所に飛んで来て「ウチの子は成績優秀なんです! 数学も得意なんです! お許しを〜、収容所だけはご勘弁を〜」みたいな事を言いながら泣き叫ぶし……

ヨボヨボの爺さんが、小麦の配給にありつけずに、奥さん連中から小麦を分けてもらうんだけど、その大切な小麦を、帰る途中でいきなり水たまりにブチ撒けて泥と一緒にコネコネして、にやにや笑いながら食うっていう恐ろしい展開になった時に、それを見ていた周りの奴らが「可哀想に……モスクワじゃ一流の科学者だったのに、収容所に入れられて頭が変になっちゃって……」とか言ってるし。

全体主義管理社会とスラム街が最強合体した地獄っていうか。

終戦直後のソ連って本当にこんな感じだったのか、それともこの映画が作られたソ連末期、ソ連崩壊直前の世相の比喩なのか……

いずれにしても、あの時代あの国に生きていた人間だけが描ける本物の末世感だろう。

これ見ちゃうと、マッドマックス怒りのデスロードの終末感にしろ、ブレードランナー2049の終末感にしろ、しょせんはディズニーランドのアトラクションでしか無いような気がするよな。
なんだかんだ言って、資本主義社会で幸せに育ったお坊っちゃんの想像力でしか無いというか。

ヒロインは、そんなヤサグレ世界に降り立った天使……

……っていうよりは、姉さん女房っていう感じだったな。 「私がちゃんと後始末しといてあげたわよっ、もうっ、ホント、私がいないとダメなんだからっ」
みたいな感じ。

しかもまだ小学生なのに、
町から逃げ出す彼氏(=小学生)に、「私も連れて行って」と言って縋(すが)り付いたのに、結局、彼氏(=小学生)に捨てられて、その挙げ句に追いかけて来た警察犬に噛まれる……という経験をしていながら……
夏になったら彼氏(=小学生)の住む街へ一人で訪ねて行って「迎えに来てあげたわよっ! さあ、帰りましょ!」って言う健気さ。

いずれにしろ、大人も子供も男も女も皆が皆、一人残らずヤサグレている世界で、たった一人、まともな感性を持った人間として描かれていた。

しかし、そんなヤサグレ地獄にまともな感性の少女が生きる場所などあろうはずもなく、結局、天使は天に帰るしかなかった、ということか。

最後のシーンは、ちょっと俺にも良く分かんない。

天の声「おい、カメラマン! 子供はいいから、女を追いかけろ!」
女(すっぽんぽんで箒にまたがって)「ヒャーッハッハッハ」
俺「……」(?????)

追記。最後のシーンについて。

この物語全体が、実は「シベリア収容所のある街での暮らし」みたいなドキュメンタリー映画でした……っていうオチなのかもしれないな。
でも、本当のところは分からない。

以下、余談。

ちゃんとした(日本語の)ホームページが無いようなので、仕方が無いからWikipediaのURLを貼っておく。
配給会社のページも一応あるのだが、専用のURLではなく、トップページの一部で「最新公開映画」として紹介されているだけなので、おそらく公開終了とともに削除されると思われる。
それだったら、WIkipediaの方が永続性という意味で少しはマシかと思う。